2022年11月14日

贈与税「法」がない理由、贈与税を払った方が良い場合

皆さんが払っている税金ですが、全て法律として定められたルールによって徴収・納付がされています。
事業主の人の所得や、サラリーマンなどの個人が年間で支払わなければならない所得税については、『所得税法』で定められていますし、法人が利益に対して払う税金は『法人税法』によって定められています。
ところで、税金の中でも贈与税という言葉は一般的だと思いますが、実は『贈与税法』という法律はありません。それでは、どこで定められているかと言うと、贈与税は『相続税法』の中で定められている税金です。
他の税金と違い、なぜ贈与税法が無いかご存じでしょうか?

贈与税の概要

贈与税とは、個人から個人へ贈与により財産を移した場合に課税される税金です。
個人間での贈与を想定していますので、法人から個人へ贈与した場合や、個人から法人へ贈与した場合には、贈与税ではなく所得税又は法人税が課税されます。
また、日本では贈与税は贈与を受けた人(財産をもらった人)に対して課税され、計算する期間は毎年1月1日~12月31日の期間で計算されます。

なお、贈与税については110万円の基礎控除というものが定められており、もらう人ひとりにつき年間110万円までは財産をもらっても課税されることはなく、また、実際に税金が課税されるのは110万円を超えた部分に対して課税されます。

文章にすると少し分かりづらいので、一つ例で計算してみましょう。

Aさんは2月10日に祖母から現金100万円の贈与を受けました。同じ年の10月5日、父から500万円の建物の贈与も受けたとします。
その場合、税金の計算方法は、
(現金100万円+建物500万円-基礎控除110万円)×税率 = 68万円
となります。

ここで課税される税率は一定の税率でなく、財産の金額の大小、贈与をした人との家族関係などによって異なり、10%~55%の税率となります。
また、家族間で生活費や教育費に充てるための贈与や個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるものは非課税ですので、父から奥さんやお子さんに渡す生活費・仕送りや学費、お葬式でもらう香典などは年間110万円を超えても通常は贈与税はかかりません。

贈与税は相続税と表裏一体

以上が贈与税の簡単な説明でした。
ところで、贈与税がもし無かったらどうなるでしょうか?
極端ですが、一つ例を挙げてみます。

子供が一人おり、財産を1億円もっている人が亡くなりました。通常であれば相続税が1,220万円課税されます。しかし、この人は亡くなる前日に死期を悟り、全財産を子供に贈与しました。贈与税がもし無かったとしたら、税金は0円となってしまいます。

このように、相続税の課税逃れを防ぐ目的で贈与税が相続税法の中に定められています。

また、一般的に同じ金額の財産には相続税よりも贈与税の方が高い税金が課税されます。

それでも贈与税を払った方が得になる場合がある?

先ほど贈与税の方が相続税よりも税金が高いという話をしましたが、人によっては、贈与税を払ってでも贈与をした方が最終的に節税に繋がる場合があります。
ポイントは下記の2つです。

① 相続税は累進課税制度が採用されている。
② 相続税は相続前3年以内の贈与のみ考慮する。

まず、1つめのポイントは相続税の累進課税制度です。相続税は、財産の多寡に応じて、10~55%の税率が課税されますので、財産の金額が多い人については、最大55%の税率が課税されることになります。
2つめのポイントは相続税が相続前3年以内の贈与しか考慮しないという点です。
この仕組みはやや複雑なのですが、簡単に言いますと、『相続前3年以内に贈与を受けた相続人は、贈与ではなく相続で財産をもらったものとして、相続税を計算して下さいね』というものになります。

裏を返して言うと、亡くなる3年以上前の贈与は贈与税で課税関係は終了して、相続税で課税されることは無いということになります。

これがどういった節税に結び付くか、先ほどの1億の財産を持っている人の例で見てみましょう。
前述のようにお子さんが一人いて、1億円の財産を持っている人は亡くなった時に1,220万円の相続税がかかります。
しかし、亡くなった人が生前に10年間、毎年300万円ずつ、お子さんに贈与していたとします。
その場合、かかってくる税金は、

① 贈与税
(300万円-110万円)×10% ×10年 = 190万円
② 相続税
(1億円ー300万円×(10年-3年)-3,600万円(相続税の基礎控除))×20%-200万円(相続税の税率です) - 57万円(過去3年に支払った贈与税は納税額から引きます)= 603万円
① + ② = 793万円

となり、トータルの納税額は793万円に圧縮されます。

なぜ、このような結果になるかと言いますと、
Ⅰ 1億円に対する本来の税率が30%程度であること
Ⅱ それに対して、1年目から7年目の贈与は10%の税率で済んでいること

これらの要素により納税額の圧縮に繋がっています。
財産が多く、相続時に高い税率が課税される人については生前贈与を活用することにより、相続税額の圧縮に繋がる場合があります。

まとめ

相続税と贈与税の関係について簡単にまとめてみました。
以上の例はごく簡単なものであり、実際には納税資金との関係なども考慮してどちらが得になるか、相続時に困らないかを考えますので、専門家で無いと難しい面もあります。相続の際にいくら税金がかかるのか、何か対策が無いかと不安に思っていらっしゃる方は、当事務所でそのようなご相談も受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

なお、先ほどの3年間の贈与のみ考慮するというルールは、今年の税制改正でさらに伸ばされる(5年ないし10年間の贈与を考慮する)可能性が高いです。もう少しで税制改正の大綱が発表される時期ですが、相続対策に大きく影響する部分ですので、その面に注目ですね。


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