2022年12月19日
2022年09月12日
2021年度の企業の内部留保が500兆円を超え、過去最高を更新したとのニュースがありましたね。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a5161b72c95584e4e942e6467d7b22486e9d21bc
21年度のため、コロナの影響を大きく受けているはずですが、日本の企業全体で見ると、製造業を中心に利益を出すことが出来たようです。
さて、このようなニュースが出ると『企業は利益を貯めすぎだ!けしからん!』という意見が中には出てきます。この意見は正しいのでしょうか?解説してみます。
内部留保とはそもそも何でしょうか?
企業の貯金(お金)といったイメージを持っている人も多いと思います。
実は会計の正式用語では『内部留保』という言葉はありません。
一般的には会計上の『純資産の部』のなかの『利益剰余金』を指して内部留保と言っています。
『純資産の部』というのは、簡単には会社が株を発行したときに株主からもらったお金と過去の利益の積み重ねの合計を言います。さらに説明すると、借入金などと違って完全にその企業の自分のお金ということです。
簿記を勉強された方はご存じだと思いますが、されていない方はイメージがわかないと思うので、次に内部留保が書いてある財務諸表について説明しましょう。
企業が作成しなければならない財務諸表には主に下記の4つがあります。
上場企業などはこれに追加してキャッシュフロー計算書などを作成しなければいけませんが、中小企業では作成が義務付けられていませんので、どの企業も最低限、この4つの書類を作成することになります。
経理に携わったことのない方はこのうちの『損益計算書』しかなじみが無いと思います。しかし、損益計算書と同じくらい貸借対照表を見て、会社の資産・負債の状況を知ることも重要です。
というのも、例えばある社長が『ガッハッハ!うちの会社は不動産を全部で100億持っとる!』と言っていたとしましょう。しかし、本当はその不動産は全て銀行から借金をして買ったものだとしたらどうでしょう?全て自社のお金で買ったものか借金で買ったものかでは外部の見る目は変わってくるでしょう。このように、会社の資産・負債・純資産を一緒に見るということは重要なことです。
少し脱線しましたが、次に貸借対照表の内容について見ていきます。
貸借対照表は資産・負債・純資産をまとめたものだと先ほど述べました。実際の貸借対照表は
かなり簡略化したものですが、この表のように貸借対照表は構成されていまして、
資産 = 負債 + 純資産
といった構成になっています。
資産を得るためには自分のお金を使うか、外部から借りる(あるいは支払いを少し待ってもらう)しかありませんので、このような構成になっています。
まとめますと、貸借対照表というのは、持っている資産をどのように得たか(借入で買ったのか、自分のお金で買ったのか)という表になります。
逆に言うと、純資産(内部留保も含みます)の金額は、あくまで株を発行した時のお金と過去の利益の積み重ねですので、今現在、それをどういった形で持っているのかは貸借対照表の資産の部を見ないとわかりません。
企業が使うお金の中で給料や旅費交通費、通信費などは基本的にはその支払った時の経費になります。
しかし、支払うお金の中には例えば建物や機械など何年間も使うものがあり、そういったものを支払った時の経費と一括して考えてしまうと正しい利益が算出できなくなってしまいます。
そのため、1年以上使うようなものを買った時には会計では支払った時に資産として計上して、その後一定の期間をかけて費用化していく『減価償却』という仕組みがとられています。
以上の様に少し複雑な仕組みが会計にはあるのですが、ここで2つの会社の例を見てみましょう。
A社とB社があります。ともに今年新しく設立した会社で、最初にそれぞれ株主が50万円出資、銀行から100万円借入を行い、今期は30万円利益が出たとしましょう。A社については今年の利益はそのまま貯金することとし、B社は来期の売上アップのために期末にその30万円を全て機械購入に充てたとします。そうするとA社、B社の貸借対照表は次の様になります。
ここで注目して欲しいのは預金の金額と繰越利益剰余金の金額です。
A社、B社ともに会社設立時の資本金50万円と借入金100万円の合計150万円を原資として事業を行った結果、30万円の利益(繰越利益剰余金)を得ました。
A社については利益をそのまま貯金しているため、預金残高は30万円増えていますが、B社については利益を機械の購入に充てているため、預金残高は初めから変わっていません。
しかし、A社B社ともに内部留保である繰越利益剰余金は30万円となっています。
このように、
内部留保が増える = 預金の残高が増える というわけではないということがわかります。
以上の様に、内部留保が増えたからといって企業がお金を貯めこんでいるかというとそうではないことがわかります。内部留保の数字だけを見てそれに対して意見を言うのは少し早計な気がします。そのほかの企業の設備投資の金額などを含めて考えることが必要でしょう。
また、『内部留保が減る』ということは、原則的には配当を出すか利益が赤字となるかしかありません。
利益を全て配当金として支払ってしまっては企業の財政的な健全性は保てませんし、もちろん赤字が続く会社はいずれ倒産してしまいますので、そもそも内部留保というのは会社を維持していく限り増えていくことが基本です。
それを踏まえると内部留保が過去最高というニュースはそれほど悪いニュースではないのではないでしょうか?
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